「なぜ普通の母親を」極太の文字タイトルに記者の強い怒りを感じる記事だ。
2013年2月28日発売の東京新聞「こちら特報部」に富山の瓦礫焼却処理に反対する主婦の窮状が掲載されている。
ごく普通のお母さん達が刑事告訴されたというのだ。 
しかも自分の住む市の市長に、だ。

 「こちら特報部」は特色ある東京新聞の記事の中でも目玉中の目玉だ。
沖縄基地問題や福島の被災地の現状など現地に赴き、今正にその場で起きている問題点を特集記事にする人気コーナーである。2006年には日本ジャーナリスト大賞を受賞している。 

 原発問題にも鋭くペンの矛先を向け、
脱原発を基調にしたスクープ記事を量産している。
そんな「こちら特報部」が瓦礫反対運動における衝撃的なニュースを紹介している。

 富山地区広域圏事務組合が瓦礫焼却の実験作業に反対し、その業務を妨害したとして「威力業務妨害罪」で富山市池多地区に住む母親達を 県警に刑事告訴したというものだ。

 驚く事に、 富山地区広域圏事務組合の組合理事長は森雅志氏。現富山市長だ。
つまり、現職の市長が市民を訴えたのだ。 耳を疑う話である。

 記事によると事件内容は、昨年12月18日の午前9時頃、瓦礫の焼却灰を積んだトラック二台が焼却処分場到着したところ、それに反対する主婦グループ十数人が阻止し、「事前に説明するのが筋だ」と抗議した。主婦グループは市の要請で駆けつけた警官に「道路交通法違反」と警告を受け最終的に「威力業務妨害」と言われて、その場を退去しトラックは10時間後に処分場に入った。この出来事を受けて、市は刑事告訴に踏み切った。

 告訴された主婦達は「池多の未来を守る会」のメンバー。
瓦礫灰受け入れについて池多地区は八割が署名で反対の意志を示しているが、市は処分場周辺住民への説明会を開いただけだった。

 何故二ヶ月も経ってから_記者は憤る。
組合の田中伸浩事務局次長は「刑事訴訟法によれば公務員は犯罪があると思量するときは告発しなければならない。理事長の決済を経て告発した」と説明したと言う。

 これに東京新聞は「大組織が弱者恐喝」基地や原発で係争中_と木鐸を鳴らす。

 大組織が司法の力を借りて弱者を法廷に呼び出し、高額な賠償金や訴訟費用を出させて金銭的にも精神的にもダメージを与えるものを「スラップ訴訟」と呼ぶ。
この主婦が刑事告発されたケースはまさに、これに当たると「こちら特報部」は訴える。

 スラップ訴訟に詳しいフリージャーナリストの烏賀陽弘道氏は「スラップより酷い。本来なら市民の権利を守るべき公務員が正反対の事をしている」と取材に答えている。

 自分を刑事告発した市長の居る街に主婦達は住み続ける事が出来るのだろうか。「我々に逆らったらこの街にいられなくしてやる」そんな瓦礫推進派の高笑いが聞こえて来る。

 富山市民は市長の環境被害の不安から立ち上がった主婦への暴挙に、この「東京新聞」の記事に、無関心ではいられないはずだ。(四角い切り抜きの写真が森市長)

東京新聞Web版  スラップ情報センター

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